HOBO日鑑イタイ新聞

職人が二本の人差し指で一文字一文字、じっくり丁寧に打ち込みました

スケベは鑑別が上手い

「スケベは鑑別が上手い」という言葉を聞いたことがあります。昔々、養成所のころだったか、研究生だったかの時分です。もしかしたら「上手い鑑別師はスケベだ」だったかもしれません。とにかくその言葉を聞いたとき、なぜ自分の鑑別がいまいちなのかわかりました。

私は鑑別師になるには紳士過ぎたのです。

その後、何とかハンデを乗り越えて鑑別師になり、色々な鑑別師の方々に出会いました。その中には、どこから見てもスケベ、誰が見てもスケベ、押しも押されもせぬスケベ、という様な人もいましたが、その一流のスケベさ加減と鑑別技術が比例していない人も見受けられました。

その一例をお話しします。

とある鑑別師さんが、夜の路上でビジネスされている女性の中に、飛び切りの美少女を見つけました。早速商談に入ったところ、交渉成立。喜び勇んで彼女の仕事部屋に向かいました。そこで彼女はお仕事の態勢を整えるわけですが、その時にその鑑別師さんは、見てはならないものを目にしてしまいました。

あるはずの無いものがそこにある時、人は驚き、恐怖します。集合写真の中に、誰のものでもない手が、肩にかかっているのを見つけた時。うちに帰ったら、フェイスマスクを付け、チェーンソーを持った大男が仁王立ちしていた時。そして、鼻毛の中に白髪を見つけた時などです。

その鑑別師さんも大変驚いたそうです。

その鑑別師さんが目にした、その場にあってはならないもの。それは美人局を仕掛けた怖いお兄さん……ではなく、人類の半数が所有するもの、鑑別師が日々の仕事の手がかりとするもの、狸の場合、風も無いのにブラブラするもの、その鑑別師さん自身も、日頃から暴れん坊で手に負えず、持て余してその場に持参してきているもの、でした。それが、その美少女の両足の付け根部分に鎮座ましましていたのです。

その鑑別師さんは、契約の無効を訴え、すでに支払った代金の返還を求めましたが、彼女(彼か?)は返金には応じられない、と頑なに拒みます。途方にくれた鑑別師さんは、その場にいた御家族(息子さんが一人)とも相談し、すでに行った投資をこの程度の問題の所為で無駄にするわけにはいかない、との結論に至ったそうです……

この例を見ていただければお分かりになると思いますが、この鑑別師さんは明らかにスケベです。己の猛り狂った性欲を鎮めるためならば、男相手だろうと知ったこっちゃない!のですから。

しかし、ここまでスケベなのにもかかわらず、人間の性別すら判別できていません。いわんやひよこをや。一流の鑑別師とはとても言えません。「スケベは鑑別が上手い」説危うし。

そもそも、スケベは鑑別が上手い→男は皆スケベだ→男は皆鑑別が上手い、という三段論法が一応成り立ちますが、導き出される結論が明らかに間違っています。男が皆、鑑別が上手いなら、試験に落ち続けていた私の知人は、あのひげ面で、立小便をしていたにもかかわらず女性だったことになります。

「スケベは鑑別が上手い」は嘘なのでしょうか?もう少し考えてみたいと思います。