HOBO日鑑イタイ新聞

職人が二本の人差し指で一文字一文字、じっくり丁寧に打ち込みました

僕が見た鑑別師はTVの中

初生雛鑑別師がテレビで取り上げられることが時々あります。珍しい仕事として、あるいは海外で生活する日本人として。私が養成所にいた頃も、何度かテレビの取材が来ていました。

某東欧の鑑別師さんはよく取り上げられていて、別荘での優雅な生活、奥様との馴れ初め、現地で立ち上げた事業、そしてもちろん鑑別師としての仕事ぶりなどが紹介されています。憧れの海外生活、というイメージにぴったりの方ですので、取材するテレビ局としても、番組を構成しやすいことでしょう。

さて、もう10年以上前、とあるテレビ番組で、北欧の一人の新人女性鑑別師の生活にカメラが密着していました。私はこの番組を放映時に見たわけではないのですが、養成所にこの番組を録画したビデオテープがあり、同期と一緒に見ました。

ずいぶん昔の話なので、記憶があいまいなところもありますが、ひとつだけしっかりと憶えていることがあります。それは、二十歳ソコソコにして彼女の愛車はBMW!と紹介されていたことです。そのビデオを見終わった後、私と同期は鑑別師は儲かるのだ、なんとしても鑑別師にならねば、と決意を新たにしたのでした。

その後、その同期とは別々の孵化場で研修生活を送り、悪戦苦闘を続けた私はなんとか鑑別師となり、ヨーロッパに派遣されました。そして、先に試験に合格し、ヨーロッパに派遣されていた、件の同期と再会しました。

久々の再会で積もる話は尽きず、色々と話すうちに養成所時代に見たビデオの話題になりました。そのとき、彼の口から出た言葉は、希望を抱いてヨーロッパに来た私を、夢から覚めさせるには十分すぎるものでした。

曰く、あのBMWは彼女の所有するものではなく、名義は他の鑑別師になっている。仕事上、車は必要不可欠だが、ヨーロッパに来たばかりで、お金のない彼女は買えないので、先輩鑑別師の所有する車の維持費を半分負担することで、使わせてもらっている。しかもあのBMWポンコツ年式が古くて大して価値のあるものではない。

さらに彼は、実物に会ったが結構かわいかっただとか、番組出演後、彼女の親元に見合い話が殺到したのだ、とか話してくれましたが、その時の私にとってはどうでもいい情報でした。

彼女の出演した番組が放映された後、養成所の入所希望者が急増したそうです。今のようにネットも普及していなかった時代です。私のように番組の内容を信じた人が多かったのでしょう。

あれからもう何年が過ぎたでしょうか。それを嘘だと知ったところで、引き返すこともできず、ここまで来てしまいました。テレビやマスコミの言うことを鵜呑みにしてはいけないと、つくづく思いました。ネットにも嘘があふれています。皆さんにもこのブログに書いてあることを鵜呑みにせず、疑ってかかることをお勧めします。