HOBO日鑑イタイ新聞

職人が二本の人差し指で一文字一文字、じっくり丁寧に打ち込みました

最近の若い奴

先日、とある先輩鑑別師が「最近の若い奴は…」という、最近よく聞く枕詞でお話をされていました。曰く、「先輩達が今の職場を守ってきたから、若い者もここで仕事ができるんだ。そのことを忘れて、目上の者に対する感謝もない。まったく最近の若い奴は…」

おっしゃることは全くもって正論で、先人達の苦労があればこそ、今の私たちがこうして鑑別でご飯を食べていけるのだと思います。そして、先輩たちに敬意を払わない若い鑑別師も、確かにいることでしょう。

私は若者では無いですし、若い人の弁護をするつもりはありません。その先輩のおっしゃることに同意することは多いです。しかし、それでもいくつかの疑問は残ります。

若い奴、後輩、新人達も、現在その職場を維持していく上で、貢献しているわけです。そのことについて、感謝している先輩鑑別師って、どれくらいいるのでしょう?

ベテラン鑑別師の皆さん、あなた方は後輩にこの職場を引き継がねば、との想いで頑張ってこられたのでしょうか?自分達の生活を守るため、家族を養うためというのがもっとも大きな理由ではないですか?自分の身を守るため、立場の弱い新人に責任をおっかぶせるような人も、尊敬しなくてはなりませんか?

本当に尊敬すべき先輩方がほとんどとはいえ、中には自分の衰えをごまかすために、誤鑑を新人の所為にして、その新人が廃業するに至った話や、気に入らない人間を攻撃して追い出す鑑別師の話も耳にします。

私は何も正義漢ぶって、これらの先輩方を批判するつもりはありません。状況が苦しくなると、すぐに共食いを始めてしまうのは、浅ましいとは思いますが。実力の無い者が淘汰されるのは、仕方の無い部分もあると思います。(この場合の実力とは、単に鑑別技術だけを言っているのではありません)

ですが、そうして鑑別業界を不本意な形で去った人達のうちの幾人かは、鑑別業界が如何に理不尽で、ひどい世界であるかを知らしめようと、(逆恨みも含めて)ネットに書き込んだりしています。それが近年、鑑別師を目指す若者が減っている一因にもなっているように思います。「最近の若い奴は…」で思考停止していては、ますます先細りになるだけです。

相手の倫理観や罪悪感に訴えかけて、言うことをきかせるという手法は、アジアの一部の国が日本に対して取っているものですが、最近はあまり有効ではありません。

それと同様に、「先輩に敬意を払え」というのは日本人の倫理観からは、反論しようの無い正論ですが、それを利用して後輩に言うことをきかせることも、難しくなってきているのでしょう。

先輩の言うことを無条件に聞いて、理不尽だと思うこともすべて受け入れて、挙句に辞めてしまうくらいならば、「最近の若い奴」が生意気で、先輩の言うことを聞かないおかげで、しぶとく生き残ってくれるほうが、個人的にはましだと思っています。